“初心”のようなもの

hogodou2008-10-23

今日は、『buy a suit スーツを買う』の東京国際映画祭2度目の上映。
雨なのにたくさんのお客さんにご来場いただき、ありがとうございました。
昨日は、追悼上映として『BU・SU』の上映があった。
久しぶりにプリントで『BU・SU』を見る。市川監督のデビュー作である。
今日のティーチインの時に、市川さんの奥様が、「忘れていたものを取り戻すためにbuy a suit スーツを買う』を撮った」という市川さんの言葉を披露される。
それは、言ってしまえば“初心”みたいなことかもしれないが、この2作品はとても共通点が多い作品だと思う。
「ヌーベルバーグが16mmのカメラを持ち、
外に飛び出してノーライトで映像を撮りはじめた当時の
“初心”のようなものが、
今回、自分の気持の中にもあったような気がする。」
これは、市川さんからいただいたメールにあった言葉だ。
助監督の末永さんは、市川さんにとっての東京は、広い通りからちょっと入ったら、路地がある、そんな風景であったと話す。
『buy a suit スーツを買う』をラフで拝見した時に、『日和下駄』みたいな感触のある作品ですね、と市川さんに話したことを思い出す。
『会社物語』の隅田川、『東京兄妹』の雑司ヶ谷…。
「路地は即ち飽くまで平民の間にのみ存在し了解されてゐるのである。犬や猫が垣の破れや塀の隙間を見出して自然と其の種属ばかりに限られた通路を作ると同じやうに、表通りに門戸を張ることの出来ぬ平民は大道と大道との間に自ら彼等の棲息に適当した路地を作ったのだ。路地は公然市政によつて経営されたものではない」
これは、永井荷風の『日和下駄』の一節である。
富田靖子さんが、学校をさぼって、東京をほっつき歩くあたりから涙が止まらない。
一昨日は、東京国際映画祭で来日中のイェジー・スコリモフスキー監督から招集がかかり、かつて『出発』という彼の作品の日本公開に関わったスタッフが彼の前に顔を揃える。
もちろん17年振りの新作である『アンナと過ごした4日間』も見る。
凄い。傑作だ。
映画のラストシーンを見た瞬間に、「なんてことだ…」という呟きが口から漏れる。
あまりに純情な愛情を描いた残酷な、しかしユーモラスな作品。
なぜ17年とらなかったのかという問いに、スコリモフスキー監督は、前作を撮った後自分に芸術家として必要な物を取り戻すために、映画ではなく絵画を描いていたのだ、というような答えをしていた。
これもまた“初心”のようなものだろうか。
そうこうするうちに、山崎裕組『トルソ』はオールラッシュを迎える…。
今日の上映を終えて、鈴木卓爾さんとお茶をしつつ帰る。
企画中の新作のことなど話し合いながら。