“東京市民”の“市井”の人たちの映画

hogodou2008-09-27

まだどこかで呆然としている。
19日に市川準監督が亡くなって、喪の仕事が始った。監督のいないMAがあり、お通夜があり、『buy a suit』の今後を巡って幾つかの打ち合わせがもたれる…。
予定通り、東京国際映画祭でも、来年ユーロスペースでも公開されるので、お時間がある方は是非ご覧いただければ幸いです。
市川さんの作品には、“東京”という言葉が入ったタイトルが多い。
『東京兄妹』『東京夜曲』『東京マリーゴールド』…。
そう言えば、『BU・SU』のヒロイン麦子も、海辺の地方から東京へ出て来た女の子だった。
初めて目にする東京。『buy a suit スーツを買う』のヒロインもまた、大阪から音信不通となっていた兄を捜しに上京した若い女性がヒロインだった。一枚の葉書に書かれていた住所を頼りに、馴れない街をゆくユキコ。初めて目にする東京…。
この作品には多くの実景が挟み込まれている。
それは、市川監督と助監督の末永さんが、自分でカメラを回して撮影した、彼らの眼に映った東京の風景。

市川さんにお会いした時に、そんな映画の感想を話したような気がする。
例えば、永井荷風の『日和下駄』を読んでいるような、そんな感触のある作品だと。そしてユキコの出会う人々は、人生に失敗した“市井”の人たち。
“東京都民”ではしっくりこない、“東京市民”の映画とでもいうべき感触を市川さんの作品は持っているような気がする。『BU・SU』も『東京兄妹』も『buy a suit』も。

そうだ。『buy a suit』を見る前に、また久保田万太郎を読んでいたのだった。
運に流され、沈黙し、無力で、泥濘のような下町に生きる人たちの上に、雪が降る。
堂本正樹が言うように、万太郎の戯曲は、「それを静かに雪の中に包み込み、消し去る」…。

また一人、東京を撮れる監督がいなくなってしまった。

市川さんの訃報を伝えた友人から、そんなメールが送り返されて来た。