廃市は、その廃れた面紗のかげに淫らな秘密を匿している。

hogodou2008-08-09

引き続き、9月にインする作品の打ち合わせが続く。
脚本の佐藤さんの手によって、脚本が飛躍的に良くなっていく。しかし、まだ粘る。もう一息だ…。
先週は朗報が届く。しかし、現時点での朗報であって、それが本当の意味で朗報となるかどうかは、まだまだこれからなのだ。交渉を続けている原作者のもとを訪れる。この時を待っていたのだ。一歩というのは、ちょっとおこがましいかもしれない。でも、半歩前進。嬉しい。
それとは別に、この半年くらいずっと待ち続けていたある企画が動きそうだ。
嬉しい、というより、ちょっとホッとする。しかし、まだまだ…。立ち上がったら、きっと楽しいと思うのだけれど。
暑い暑い、と言いながら、打ち合わせから打ち合わせへ。なので、週末には、ぐったり。
いつもの西荻窪音羽館の広瀬さんに、本を取りに来ていただく。このところいつも手伝ってくれていた広瀬さんの幼い息子さんは、今回は来ず。夏休みだからね。結構悩んで、たくさんの本を選んだつもりだったのに、大人二人でバンへの積み込みがあっけなく終る。
広くなった部屋の真ん中で、猫は我がもの顔でゴロリ。
『怪談 水の構図』を空想するために、北原白秋の『柳河風物詩』を持っている。これは、死後、薮田義雄によって編まれた北原白秋の柳河に関する詩歌文章を一冊に収めた小さな本である。
「私の郷里柳河は水郷である。さうして静かな廃市の一つである。」
この一文から始る「水郷柳河」という文章が好きだ。
「水は清らかに流れて廃市に入り、廃れはてたNoskai屋(遊女屋)の人もなき厨の下を流れ、洗濯女の洒布に注ぎ、水門に堰かれては、三味線の音の緩む午すぎを小料理屋の黒いダアリアの花に嘆き、酒造る水となり、汲水場に立つ湯上りの素肌しなやかな肺病娘の唇を嗽ぎ、気の弱い鶩の毛に擾され、さうして夜は観音講のなつかしい提燈の灯をちらつかせながら、二挺樋を隔てて海近い沖の端の鹹川へ落ちてゆく」
この水の流れの辺で、生物は生まれ、死に、朽ち、伝染病は運ばれ蔓延する…。
そして、柳河は「廃れた面紗のかげに淫らな秘密を匿して」いる。
「小さな平和な街の小さな世間体を恐るる--利発な心が、卑怯にも、人目につき易い遊びから自然と身を退くに至ったのであろう。いまもなほ、黒いダアリアのかげから、かくれ遊びの三味線は晝もきこえて、水はむかしのやうに流れていく」
夜、三木卓の書いた評伝『北原白秋』を読む。