さながら水に浮いた灰色の棺である。

hogodou2008-08-04

ここのところずっと、9月にインする作品の打ち合わせが続いている。
先週の木曜日から土曜日までは、脚本の整理に追われていた。監督の書いた脚本を、『ユダ』や『泪壷』などの瀬々敬久監督の佐藤有記さんが直し、監督へキャッチボール。それを、助監督Kと制作Tと監督、佐藤の5名で揉む。段々、撮るべき方向性が、見えて来たような気がする…。
今日は、是枝裕和監督『ディスタンス』の録音を担当した森さんと音響の菊池信之さんと監督の打ち合わせ。美術打ち合わせもある。
明日は、音楽の赤犬アキラくんと監督の顔合わせの後、演出制作部で打ち合わせ…。
昨日、夕食の後、河原で涼みながら数十分眠る。
安息である。日々の睡眠は、なんだか綱渡りと綱渡りの間を繋ぐ小休止のようで、時間の割になんだか慌ただしい。時間は短いけれど、河原での眠りの方が、ゆっくりと休んだ気になるのは、なぜだろう…。
ふらりと入った本屋で、高貝弘也さんの『白秋』を買って読む。
北原白秋をめぐる書簡のかたちをとったエッセイである。
久々に『怪談 水の構図』が刺激される。
『怪談 水の構図』という映画があるわけではない。タイトルだけが、凄く印象に残っていて、北原白秋に触れると、まだあるわけでないこの映画について、あれやこれや妄想をたくましくしてしまう。
『怪談 水の構図』…このタイトルに出会ったのは、高校生の頃だろうか。大林宣彦監督の『廃市』が映画化されたと聞いて、雑誌シナリオを買い求めた。福永武彦の原作が、好きだったのだ。この雑誌に、映画『廃市』をめぐって、脚本の内藤誠さんと桂千穂さんの対談が掲載されていた。そこで、二人の口から出たのが、『怪談 水の構図』の構想なのだ。『廃市』が撮影された柳川で、中川信夫監督を担ぎだし、二人で脚本を書き、『怪談 水の構図』を撮る…。
「…さながら水に浮いた灰色の棺である。」
これは、小説『廃市』のエピグラムとして掲げられた白秋の「おもひで」の一節である。
もちろん『水の構図』というのも、白秋の死後出版された柳川水郷の写真集のタイトルである。
あれ以来、思い出したように『怪談 水の構図』を折に触れて妄想するのが癖のようになっている。後に、内藤さんや桂さんに、どんな映画を考えていたのか聞いた事もあったけれど、映画はタイトル以上の明確なかたちをとっていなかった…。
本屋から出ると、遠くに内藤誠さんが歩いているのが見える。
つらつら『怪談 水の構図』を妄想している時に、なんというタイミングか、とも思うのだけれど。