「消えてよろしい。消えよ」と言った。

hogodou2008-01-12

年明けからいろいろである。
甲斐田祐輔監督『砂の影』は、引き続き試写が続いている。いろんな人が見に来てくれるのが嬉しい。甲斐田監督の前作『すべては夜から生まれる』出演者である甲田益也子さんがいらしてくれる。少しずつ変化している監督の作品を彼女は、どう見てくれたのだろう? 『nu』という特殊音楽雑誌(?)を個人編集もしているデザイナーのT君が、いろいろ考えるところがあったらしく、いろいろ話したそうにしてくれているのが嬉しい。ゆっくり話できずごめんね。
でも、『砂の影』という作品は、確実に大友良英さんやジム・オルーク音響派と呼ばれている音楽たちからとても影響を受けた、もしくは類縁関係にある映画だと思うのだ。ちょっと振りかざした言い方になってしまうのだけど、それはファシズムに抗する音楽、または対立する音楽ということなのだけど。8mmで撮るということは、決してデジタルに対してのアナログということでは断じてない。
終って、試写に来てくれた、江口さんや岡部君たち出演者と感想を、ソフト白玉ぜんざいを啜りながら喋る。
このところ、必要があって向田邦子の『あ・うん』の脚本を読んでいた。そこからいろいろ考えて、レイモンド・カーヴァーの『象』も続けて読む。カヴァーの絶筆となった「使い走り」がよかった。
それも一段落したので、片山廣子『燈火節』をポツポツと読む。「古い伝説」というエッセイに書かれたリリスの話に惹かれる。魂を持たないリリスは、希望がなく、だから失望も知らなかった。しぜん悲しみも持たないのだった。そうして何千年か暮らしているうちに、彼女はひとつの感情を持った。それはくたびれたのである。不足ない悲しみのない幸福にくたびれて、ある時彼女ははじめてため息をついたのであった。リリスのかすかなため息を聞いた神様は、あきらかにこの創作が失敗作であることを悟って、「消えてよろしい。消えよ」と言った。リリスは海辺を歩いていた。たそがれる海の色がリリスの眼に映った。その翌朝、砂の上に白い水泡が残っているだけで、リリスはこの世界から消えていた…。
ふらりと入った古本屋でジョルジュ・ペレックの『物の時代・小さなバイク』を買う。ずっと探していた本だ。