有元利夫の日記

hogodou2007-04-29

「…花は散らず、舞はず、ふるのである。穏やかに静かに、音もなくふるのである。」
この美しいビジョンについて考えている。有元利夫の絵を初めて見たのは、いつだっただろうか? 多分、高校の頃、図書館で画集『女神たち』を見たのは、最初ではなかったか。いまだに「バロックの情景/ビバルディの『四季』から《春》」と名付けられた絵が好きだ。登場人物の手の中で、花が宙を浮遊している…。先日、横浜そごうで開かれた展覧会でも見たが、何度もその絵の前に戻って、眺めた。未亡人である容子さんは、有元利夫の初期の絵が好きだと言うが、同感だ。生前最後の大作である「出現」もよいが、この小品にひかれている。彼は、死ぬ前の年の日記に、こう書いている。
「僕には歌があるはずだ。それは大芸術ではないけれど、本物だったはずだ。気楽ではあったけれど、不まじめではなかった。小さな楽しみだったはずだ。…いつのまにか、値段や画壇や社会が、その気楽さにおどしをかけ、もっとチャンとやれチャンとやれとはやしたて、すっかりその気でチャンとやるつもりだった。譜面どおりに正しい音程を正しい発音でベルカントでやったら、民謡でなくなっていた。そうすてたもんでもない民謡だったのに、正しいなんとかたちにずいぶん邪魔されちまった。…簡単なエスキースを描こう。物語をつむごう。ささやかな出来事やささやかなキッカケを大事に大胆につむぐ。これが明日からの仕事だ」
物事の深いところに降りて行くと、そこには必ず音楽がある…これは、誰の言葉だったか?
散歩の途中、ヤマツツジが咲いている。その淡い朱色。
今日のiPod アルボ・ペルト『ALINA』
ガス・ヴァン・サント監督の『ジェリー』に使われていた。