かれの夢にはブルースが加わっている。

hogodou2008-05-22

どたばたとここ数日、企画書作りであった。
日向朝子監督と、半ば冗談のように、半ば本気で考えていた企画が動き出しそうな空気になっているのだ。と惑いはあるが、ちょっと嬉しい。実は、監督とは別の企画をすすめていたのだが、こちらの方が急に動き出したのだ。企画とは分からないものだとつくづく思う。何度か打ち合わせを重ね、相変わらずあちらこちらに脱線しつつ、映画の内容を整理していく…。昨日は、監督からシノプシスが送られてくる。いい話だと思う。実現すれば、撮影もすごく楽しそうだ。詳しいことはまだ書くことができないのだけれど…。
夏休みにユーロスペースでレイトショー公開する『フェアリーテール・シアター』のマスコミ試写も始っている。これは、80年代にアメリカで放送された子供向けのスタジオ撮影のドラマである。アルトマン作品のヒロインであるシェリー・デュヴァルが、なぜか製作総指揮。監督に、コッポラやら、アイヴァン・パッサーやら、ロジェ・ヴァディムやら、ティム・バートンやら、エリック・アイドルを招き、ハリー・ディーン・スタントン、バット・コート、ライザ・ミネリなどなどそうそうたるメンツを集めて、童話を映像化しているのだ。特筆すべきは、アイヴァン・パッサーの作品の主演は、ミック・ジャガー。グレアム・グリフォードの作品には、クリストファー・リーだけでなく、フランク・ザッパが怪演(ちなみにナレーターは、ヴィンセント・プライスで古典ホラーへのオマージュがあって面白い)。そして、今日試写をモニターで見ていて気がついたのだが、なんとミック・ジャガー主演作品の音楽は、ヴァン・ダイク・パークスだった! ミック・ジャガーヴァン・ダイク・パークスという、ちょっと凄い組み合わせなのだ。
とにかく予算もないスタジオ撮影なのでしょぼいのだが、みんな本気なのが面白い。監督や俳優たちが、それぞれの持ち味を出していていて、可愛らしい作品ばかり。
ナボコフの『ベンドシニスター』は、ちょっとお休み。企画書のための資料を読んだり、ちょっと気になっていた青山南さんの『ホテル・カリフォルニア以後 --アメリカ同時代を読む』を読む。この本が出版されたのは、1982年と奥付にある。後書きには、『ホテル・ニューハンプシャー』がジョン・アーヴィングの最新刊だとある。
「…六〇年代以後、ないしは、ジョーン・ディディオンの言いかたにならえば、「六〇年代の翌朝」、がぼくの見たかったアメリカの風景なのだろう」
この本に登場するのは、フリップ・ロスやポール・グッドマンから、ジョーン・ディディオン、アン・ビーティ、レイモンド・カーヴァー、トム・ロビンス、マイケル・ハーティム・オブライエンと、アメリカの「六〇年代の翌朝」を小説を読むことで横断していく…。トム・ロビンスの『カウガール・ブルース』について書いた章が切ない。カウンター・カルチャーという見果てぬ夢。「(『カウガール・ブルース』では)…かれの夢にはブルースが加わっている。夢は大きく広がらず、それどころか、夢をもったことが哀しみであるがごとく、ロビンスはタイプをぶっ叩いている」。この本からは、世界への幻滅の後で、「嵐からの隠れ場所」を求めながら、ついに求め得ないアメリカの姿が浮かび上がってくる。名著だと思う。